「“利害のない信頼関係”が、今の自分には必要だった。」
ビジネスでは、相手の目的や立場を瞬時に読み取り、言葉を選び、感情を抑えて対応する。
私は外資系マーケティング会社で長く経営に携わり、複数の企業でアドバイザーや役員を兼任している。仕事では論理とスピード、結果を出すことが常に求められ、人生の多くをそのプレッシャーの中で過ごしてきた。
それゆえ、誰かと肩書きや目的を超えて関係を築く機会は限られていた。
仕事では出会いも多いが、どこか利害や立場が前提にある。共感ではなく分析、共鳴よりも成果が優先される。そうした環境に長くいるうちに、「本音を交わせる相手」の存在がどれほど貴重かを痛感するようになった。
10カラットのことを知ったのは、投資先の若手経営者との会話がきっかけだった。
最初は正直懐疑的だったが、面談での丁寧で実直な応対に、誠意と温かさを感じた。こちらの立場や価値観を理解したうえで、押し付けのない自然な提案をしてくださる姿勢に信頼感が芽生えた。最初の一歩として、安心して任せられる場だと感じたのは大きかった。
初回にご紹介いただいた女性は、知的で感受性が豊かな方だった。
会話のテンポが心地よく、話題の深さも適度で、広がりすぎない。文学や美術に親しんできたという彼女との対話は、精神的に満たされる時間だった。初対面にもかかわらず、構えることなく穏やかに過ごせたのは初めてかもしれない。過度な期待や駆け引きのない対話が、これほど心を和ませるとは思わなかった。
その後、数度の食事を重ね、今も節度ある交流が続いている。
頻繁に会うわけではないが、日常の中に「自分を言葉にできる場」があることで、生活に静かな変化が生まれている。考えを共有できる相手がいるという事実が、日々の安心感につながっている。
立場や役割を離れても、自分自身に敬意を持てるような関係性を築ける場所──
それが、今の自分にとって、本当に必要なものだったのだと実感している。
50代前半/外資系企業役員










