「ここまで印象に残る夜になるとは思っていませんでした」
申し込みをしたあともしばらくは、少し早まったかもしれないと思っていました。
誰かに会う前から身構えるくらいなら、最初から動かないほうが気楽です。
そういう考えが頭に残っていて、面談の日が近づいても、期待より様子見に近い気分のままでした。
面談の日に、実際に男性コンシェルジュと会って話したとき、何を話せばいいのか分からないという感じはありませんでした。
ただ、こういう場では、こちらの考えをきちんと受け止めてもらえるのか、無理に話を前へ進められないか、そのあたりは気になっていました。
曖昧なまま話を合わせるのは自分の性に合わないので、気になることはその都度確かめるつもりでいました。
実際に話してみると、こちらが言ったことを急いで整理されたり、都合のいい方向へ持っていかれたりする感じがなく、思っていたより落ち着いて話せました。
無理に前向きなことを言う必要もなく、まだ決めきれない部分はそのまま持ち帰って考えられたのもよかったです。
入会してから会員ページを見て、気になった方を何人か開いていきました。
写真とプロフィールを見ているうちに、この方に会ってみたいと思えた相手がいて、オファーを依頼しました。
気になっていたのは、その時間がただ形だけで終わらないかということでした。会う以上は、短くても何かが残る時間であってほしいと思っていたので、当日待ち合わせの前はそこだけが少し引っかかっていました。
少し早めに着いて、待ち合わせに決めていた場所で相手の到着を待っていました。
周りを行き交う人を何となく眺めながら、時計を見直してもまだ数分しか経っておらず、こういうときだけ時間の進み方が鈍くなるように感じました。
上着の前を軽く整えたあと、それ以上は余計なことを考えすぎないようにしていたのを覚えています。
約束の時刻が近づいたころに電話が入り、名前と立っている場所の目印を聞いてからそちらへ目を向けると、すぐに相手だと分かりました。
姿が見えた瞬間に緊張が消えたわけではありませんが、構えていたほどぎこちない感じはありませんでした。
軽く挨拶を交わして店へ向かうまでの短いやり取りにも、変なよそよそしさがなかったのを覚えています。
その日選んだ場所は、ふだん自分でも使うことのある落ち着いたレストランでした。
店の雰囲気や料理の出る間合いは分かっていたので、その点では気が楽だったのですが、同じ店でも向かいにいる相手が違うだけで、いつもとは少し見え方が変わるのだと感じました。
席に着いた直後は少し肩に力が入っていたものの、料理が運ばれ、食事が進むにつれて、余計な力が抜けていきました。
使い慣れた場所だったからこそ、落ち着いて過ごせたのかもしれません。
食後の飲み物を前にして時計を見たとき、思っていた以上に時間が経っていて、そのまま店を出たあと、少し歩いたところで挨拶を交わして別れました。
店を出てからしばらくは、その夜の余韻が残っていました。
入口の照明や片づいたテーブルの感じまで浮かんできて、家に戻ってからもすぐには切り替わりませんでした。
会う前に考えていたことと、実際に同じテーブルで過ごした時間では、あとに残るものが違うのだと思いました。
申し込みをした時点では、ここまで印象に残る夜になるとは考えていませんでした。
50代/職業








